3月15日、香港政府は、2月26日から開始されたワクチン接種プログラムの優先接種グループの対象者を拡大することを発表した。これにより、30歳から59歳の者、香港以外で就学する16歳以上の学生、ドメスティック・ヘルパーが新たに優先接種グループに加わったことにより、多くの人が対象になった。
ちなみに、香港でのワクチン接種は2月下旬に始まったばかりなのに、このスピード感で30歳以上が対象となるのはさすがと言える。国民一人一人に割り振られているHKID(日本のマイナンバーカードみたいなもの)のおかげなのか、SARSの経験が生きているのか、すべてオンラインで完結できる仕組みがあるからなのか、とにかくスピードが日本と比べて圧倒的に早い。人口も745万人程と東京とほとんど変わらない。
今回の拡大を含めると、以下の者が対象となる。
(1) 30歳以上の者(及び70歳以上の者の介護者2名まで)
(2) 保健医療、感染症対策業務
(3) 老人ホーム、障害者施設の入居者及び従業員
(4) 必須公共サービスの従事者
(5) 越境運輸、港湾及びコントロールポイント業務の従事者
(6) 飲食店、市場、スーパーマーケット、コンビニエンス・ストア、配達業者(含むフード・デリバリー)の関係者
(7) 交通機関の職員
(8) 建設業関係者
(9) 施設管理の関係者(警備員、清掃員を含む)
(10) 教職員
(11) 観光業関係者
(12) 飲食店等に対する規制に関する規則(香港法令第599F章)に関連する施設の従業員
(13) 16歳以上の海外留学生
(14) ドメスティック・ヘルパー
これで、今まで聞き流していたワクチンのニュースを真剣に考えなければ行けない状態になった。なぜなら、香港では予約する際にワクチンの種類を選べるからだ。接種するか否か、接種する場合はどのワクチンを接種するのか、自分で選択できるからにはちゃんと理解したいと思った。そこで、調べたことをまとめたので、皆さんの参考にもなればと思う。
そもそもワクチンとは何か?
一般的に病気にかかると体の中に免疫ができるのと同じで、感染症にかかった場合でも原因となるウイルスに対する免疫ができる。これによって、その感染症に再びかかりにくくなったり、かかっても症状が軽くなったりするようになります。予防接種とは、このような体の仕組みを使って病気に対する免疫をつけたり、免疫を強くするために、ワクチンを接種することをいう。
ワクチンの種類にはどんなものがあるのか?
以下、厚労省ホームページより抜粋。
【生ワクチン】
病原性を弱めた病原体からできています。接種すると、その病気に自然にかかった場合とほぼ同じ免疫力がつくことが期待できます。一方で、副反応として、軽度で済むことが多いですが、その病気にかかったような症状が出ることがあります。代表的なワクチンとしては、MRワクチン(M:麻しん、R:風しん)、水痘(みずほうそう)ワクチン、BCGワクチン(結核)、おたふくかぜワクチンなどがあります。
【不活化ワクチン、組換えタンパクワクチン】
感染力をなくした病原体や、病原体を構成するたんぱく質からできています。1回接種しただけでは必要な免疫を獲得・維持できないため、一般に複数回の接種が必要です。代表的なワクチンとしては、DPT-IPV:四種混合ワクチン(D:ジフテリア・P:百日せき・T:破傷風・IPV:不活化ポリオ)、DT:二種混合ワクチン(D:ジフテリア・T:破傷風)、日本脳炎ワクチン、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン、肺炎球菌ワクチン、ヒトパピローマウイルスワクチンなどがあります。
【メッセンジャーRNAワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチン】
これらのワクチンでは、ウイルスを構成するタンパク質の遺伝情報を投与します。その遺伝情報をもとに、体内でウイルスのタンパク質を作り、そのタンパク質に対する抗体が作られることで免疫を獲得します。今回、新型コロナウイルスの表面にあるタンパク質に対するワクチンが国内外で承認を受け、日本でも接種が開始されています。
世界で開発が進むワクチンの種類
ファイザー社(米)ー mRNAワクチン
- 治験参加者のうち、170例が発症した段階で実施。2回目接種から7日経過した時点以降の発症の予防に95%の有効性を示した。※ 発症者のうち、162例がプラセボ(偽薬)群、8例がワクチン接種群(なお、重症の感染例については、9例がプラセボ群、1例がワクチン接種群)。
- 有効性は年齢、性別、人種・民族間で一貫しており、65歳を超える成人では94%を超える有効性が認められた。
- 重大な安全性の懸念は認められず、グレード3の有害事象で頻度が2%を超えるものは、疲労3.8%と頭痛2.0%のみであった。
- 組み入れ:16歳以上の計43,548人(うち、43,448人に接種実施)。 ※ COVID-19感染症の既往がある人免疫抑制剤を使用している人等は除外されている。
- 無作為評価者盲検化比較試験 (半数に新型コロナワクチン、残り半数に生理食塩水を投与。) ※ 評価者盲検化とは、一般にどちらの薬を接種されたかが評価者に明かされない試験方法
- 21日間隔で2回の接種を実施。
- 2回目投与7日後以降の、新型コロナウイルスワクチン感染症の発症予防効果等を確認。
接種部位の局所反応(年代別、1回目接種と2回目接種毎の比較)

接種1回目、2回目、ともに30歳以上に該当する左側の図は、接種部位の痛みを感じる人が多い結果となっている。
全身性の反応(16〜55歳、1回目接種と2回目接種毎の比較)

また、全身性の反応も、接種1回目、2回目ともに、倦怠期、頭痛、寒気、筋肉痛、が感じられるとのことだが、2回目の方が1回目よりそれが顕著である。
全身性の反応(55歳以上、1回目接種と2回目接種毎の比較)

こちらも16〜55歳の結果と同じで、接種2回目の方が全身性の反応が1回目より大きい結果となっている。
アストラゼネカ社(オックスフォード大)(英)ー ウイルスベクターワクチン
全世界に20億人分を計画、米に3億人分、英に1億人分、欧州に4億人分、新興国に10億人分を供給予定としている。
【研究方法の概要】
- 18歳以上の計23848人を組み入れ(うち、11636人を対象に中間評価を実施)
- イギリス、ブラジル、南アフリカで実施された試験を統合解析
- 単盲検比較試験及び二重盲検化比較試験 (半数に新型コロナワクチン、残り半数に髄膜炎菌ワクチン又は生理食塩水を投与。)
※単盲検とは、一般にどちらの薬を接種されたかが被接種者に明かされない試験方法
※二重盲検とは、一般にどちらの薬を接種されたかが被接種者・接種者ともに明かされない試験方法 • 28日間隔で2回の接種を実施。
2回目投与14日後以降の新型コロナウイルスワクチン感染症の発症予防効果等を確認。
【主な結果】
○ 有効性に関する結果(イギリス、ブラジルで実施された試験を統合解析)
- 通常量を2回投与した場合、62.1%の有効性を示した。(ワクチン接種群:4440人、プラセボ群:4455人) ※ 発症者98例のうち、27例がワクチン接種群、71例がプラセボ群
- 半量・通常量を投与した場合、90.0%の有効性を示した。(ワクチン接種群:1367人、プラセボ群:1374人) ※ 発症者33例のうち、3例がワクチン接種群、30例がプラセボ群
- 両群を合わせた場合、70.4%の有効性を示した。
○ 安全性(有害事象)に関する結果(4つの試験を統合解析)
- 重篤な有害事象は175例(168人)認められたが、 ワクチン接種群:84例、プラセボ群:91例であった。
接種部位の局所反応

全身性の反応(局所反応以外の反応)

モデルナ社(米)ー mRNAワクチン
対象:18-55歳の健康成人45人、 56歳以上の健康成人40人 ※SARS-CoV2感染者との濃厚接触や発熱等の症状がない人
- 非盲検試験 (25μg群、 100μg群、 250μg群※) ※18-55歳のみ
- 1回目接種後、28日間隔で2回目の接種を実施。
- 接種後に体内に産生された抗体、各接種後7日間の有害事象等を確認。
○免疫反応(免疫原性)に関する結果
- 新型コロナウイルスに対する抗体や中和応答は接種量が多いほど高かった。
- 2回接種後には、抗体の値が1回接種後より高い値となった。 ※最長の測定時点は57日。
- 接種部位の疼痛は、もっともよく見られた有害事象だった(18-55歳の対象者では半数以上に見られ た)。
- 倦怠感・寒気・筋肉痛・頭痛といった全身性の反応もよく見られた(18-55歳の対象者では半数以上)。
- 1回接種後より2回接種後、また用量が多いほど有害事象の発現頻度が高かった。
- 重篤な有害事象はみられなかった。
全身性の反応と接種部位の局所反応(接種量毎の比較)ー 18~55歳

全身性の反応と接種部位の局所反応(接種量毎の比較)ー 56歳以上

全体的に、接種1回目より2回目の方が、何かしらの症状が出ている人が多いようだが、これは体の中に免疫ができている証拠なのだろう。
- ジョンソン&ジョンソン(ヤンセン社)(米)
- サノフィ社(仏)
- ノババックス社(米)
- ビオンテック社(独)
- シノバック・バイオテック社(中)
香港で接種可能なワクチン
香港で提供されるワクチンは、北京に本社を置く「科興控股生物技術(Sinovac Biotech/シノバック・バイオテック」」が開発した「克爾来福(CoronaVac)」、上海の復星医薬(Fosun Pharma)とドイツのビオンテックが共同開発した「復必泰(Comirnaty)」、イギリスのアストラゼネカとオックスフォードが開発したワクチンの3種類を各750万本、計2,250万回分の契約を完了している。
ワクチンを接種しない場合とした場合のリスク
「科興控股生物技術(Sinovac Biotech/シノバック・バイオテック」」が開発した「克爾来福(CoronaVac)」は、以下のようにニュースが出ていて、キャンセルが相次いでいるようだが、まずは、ワクチンを接種した場合としなかった場合のリスクを考えてみたいと思う。
【新型コロナ】香港でワクチン接種のキャンセル増、副反応報道で
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-03-10/QPRMKMT0G1LC01
中国製ワクチン接種後に6人死亡 香港、当局「関係ない」
https://www.chunichi.co.jp/article/218562
ワクチンの有効性は、上にも書いたとおりだが、リスクはどのぐらいなのだろうか?
まずは、ワクチンを接種しなかった場合でも、香港で市内感染するリスクは実は結構低い(約0.14%=累積感染者数11,330人÷香港の人口745万人)。感染した場合の死亡リスクは、約1.8%である(本日時点の死亡者数は203人)。よって、街を歩いていてコロナによって死亡する確率は、約0.0027%。
この内、ほとんどの市内感染は、クラスターによって拡大をしてきたが、全て香港政府のアプリ「出行安心」によってトラッキングができていて、日本でも言われているような3蜜行動を行わないことによって感染リスクは更に低く抑えられる。ちなみに、東京の累積感染者は、116,298人なので人口927万人で割ると1.25%であり、香港の9倍である。感染した場合の死亡リスクは、1.4%(死亡者数1,612人)と香港より若干少ない。街を歩いていてコロナに死亡する確率は、0.017%。香港の6.3倍。
一方で、ワクチンを接種した場合は、上記の調査結果のように体が色んな形で免疫を示すが、死亡者数は今のところ少ない。3月16日時点でのワクチン接種数は229,300名で、中国のシノバック・バイオテック社のワクチン接種を行ったあとに公表されている限り6名が亡くなっているため、0.003%程である。よって、本日時点の単純計算によるとほぼワクチン接種をしなかった場合と同じとなっている。これは悩ましい…となりそうだが、ここで接種可能なワクチン別で計算し直すと、中国のシノバック・バイオテック社を摂取した人からしか死亡報告がされていないことを考えると、ドイツ製のビオンテック社が開発したワクチンは、香港においてまだ死亡者が報告されていないのので、安全と言えるだろう。
よって、ドイツ製のビオンテック社が開発したワクチンを摂取すれば、感染予防、発症予防、重症化予防ができるだけでなく、ワクチン接種直後の死亡リスクほぼない。
更には今後検討されているトラベルバブルが盛んになってくると、「ワクチンパスポート」が必要になってくることが想定できるから、ワクチンを摂取していると各国に入国後に必要とされていた強制隔離の日数が減ったり、なくなったりと、以前のように移動ができるようになる。
アジアでは、台湾とパラオ、シンガポール、シンガポールとオーストラリアが協議を進めている最中で、ワクチンを接種することで、これらの国の間は移動がしやすくなるはずである。

ワクチン接種予約方法
予約は、政府が提供するワクチン専用サイトからすべてオンライン予約できる。この辺な、日本と大きな違いだろう。
香港政府、ワクチン専用サイト
https://booking.covidvaccine.gov.hk/forms/index.jsp
名前、HKID、生年月日を登録した後に、1回目・2回目の接種場所と時間を選択する。接種場所は香港18区にある29カ所にある社區疫苗接種中心(Community Vaccination Centres)、1,500カ所にある診療所、医院管理局(Hospital Authority)管理下にある普通科、老人ホームなどの4つで行う。社區疫苗接種中心のうち5カ所がシノバック製、24カ所が復星医薬とビオンテック社製のワクチンを提供することになっている。
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